Parity Violation Energy Difference (PVED)

不斉(Chirality)、その化学的・物理的性質は同一であるが、立体構造が鏡像関係にあるというもの。

 

が、実は絶対的なエネルギーに差があるよ、というのがParity Violatioin Energy Difference (PVED) 。


パリティの破れによるエネルギー差、ということだけどパリティというのは空間座標のことなので、

これが破れるというのはエナンチオマー同士が等価でないことを意味する。

 

パリティ対称性の破れ

もっとミクロなスケールにおいてパリティ対称性が破れていることは理論(1956)および実験(1957)で証明済み。コバルト60を使ってβ崩壊のパリティ対称性を観測する実験で、同年にノーベル物理学賞が与えられている。

 

β崩壊は中性子が弱い相互作用を媒介するウィークボソンを放出して陽子を与える現象で、この時の放出の方向性が電子スピンの非対称性に関係して?破れている、ということだったような。

ともかくこの弱い相互作用においてのみパリティ対称性が破れることが知られている。

 

そしてこの理論が素粒子のスケールを飛び出して、有機分子のスケールまで拡張されていくのが今回。

 

不斉の起源

人間の身体はほとんどが一方の不斉源(L-amino acid and D-sugar)のみによって構成されている。

 

それはなぜか?

D-アミノ酸ではない必然性はあるのか?

 

PVEDによる説明は仮説のうちのひとつ。

 

Parity Violation Energy Difference

有機分子でのエナンチオマー間におけるエネルギー差は理論上10のマイナス17乗スケールとのこと。

アボガドロ数のスケールでみると確かにある程度の差がある、と言えるのかもしれません。

(ちなみにアミノ酸ではL体のほうが安定という計算結果になるようです。)

     

この微少差異を現実の非対称性のレベルまで増幅させるには相当なメカニズムが必要と思われる。

さて、どんな増幅機構が考えられるか?

 

微少の不斉源の増幅

生命における不斉の起源を考える際には、生命と不斉の誕生どちらが先か、という鶏と卵的な問題を考える必要があるがひとまず省略。

 

考えられるひとつの仮説は、

生命においてはRNA、DNA、たんぱく質といった生体高分子が重要な役割を担っているが、

ここで高分子を構成する1つのユニット(糖やアミノ酸)のPVEDが蓄積されて、不斉高分子を与える、というもの。

古くは1966年Yamagata's linear modelというものがあるみたい。

しかし普通に各モノマーから高分子を作れば、ほとんどの高分子はランダムな立体を持つはず。

だから不斉の立体方向性が揃った(PVEDを蓄積するような)ものが選択的にポリマー化していく必要がある。

 

そこで持ち出されるのが自己触媒反応。

定の立体構造のdimerやoligomerが自己触媒的に同一の立体を増幅するもの。

Template Replicationとも。

Reviewをここに置いておこう。上記の内容は3章。

Nature、Scienceもこんなバンバン出てるんですか知らなかったよ、という感じ。

核酸みたいなのもあるし。

 

ほかにも、そもそもアミノ酸とかの材料分子が不斉増幅によって生産されてる、という仮説もあります。

有名なのはマーチソン隕石でしょうか。隕石中のアミノ酸にeeがでてるという。

で、そのまた不斉源は?となると仮説はいくらでもあってPVED関係なくなる?のでまたの機会に。

 

PVEDを観測する

ここまで書いたものの有機分子スケールでのPVEDはまだ観測されていない。

さて、これはどうやって観測したらよいものか。

 

直接、分光学的に観測するのが理想的で、

実際そのような提案あるようだけど、未だに実現はしていない模様。

 

生体分子のように炭素に不斉を持つ分子のPVEDは比較的小さいが、

理論によると原子番号が多いほうが値が大きくなるようで、

重原子の錯体を用いて観測しようとするpaperがちょこちょこ見られます。

 

それについてはまた個別に。